氏によって、その後、多くの安居院唱導資料が紹介されている(注1)。また、真福寺に蔵されている安居院唱導資料が「真福寺善本叢刊」中に収められて刊行されている(注2)。さらに、畑中栄氏によって、『澄憲作文大体』『類句抄』『言泉集(東大寺北林本)』が古典文庫から、翻刻紹介されている。
 また、村山修一氏によって紹介された『普通唱導集』(注3)、安居院の唱導に用いられたであろう秀句を類従して編まれたと考えられている『金玉要集』(注4)も、安居院を中心とした中世の唱導を考えるうえで重要な資料である。
 なお、金沢文庫に蔵される唱導資料には、安居院以外の唱導資料も多く蔵されており、大きな意義を持つ。納冨常天氏によって翻刻・紹介された湛睿の唱導資料は、安居院の流れを汲まない唱導資料であり、実際の法会において用いられた唱導資料である点で重要である(注5)

 二、 中世唱導資料にみる孝思想
 これらの唱導資料に拠りながら、中世の追善供養法会における唱導を通して、日本人の祖先祭祀に関わる思想や信仰を考察していく。安居院の祖、澄憲による表白の規範文例集である『澄憲作文集』の「第三十三 父母報恩」には、亡親追善供養表白の規範文例が収められている。この表白からは、平安時代後期の追善供養法会の趣旨およびその背後にある思想をうかがうことができる。

(大曾根章介「澄憲作文集」、『中世文学の研究』、東京大学出版会、1972年。『大曾根章介日本漢文学論集』第二集所収)

まず親の恩が讚えられ、その恩に報いる真の孝養は後世の菩提を祈ることであると述べる。孝子伝の丁蘭・伯瑜・黄香・劉殷、また、周の文王、唐の高祖の孝行を引き合いにしながら、亡親の後世を救う追善供養が、これらの孝子たちに勝る孝養であることを説く。

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