そもそもインフォーマルセクターにおける就労が重要であるということは,結局,そうした地域・諸国で,いかにフォーマルセクターの就労機会が絶対的に不足しているか,経済的困窮がいかに深刻であるかを表すものにほかならない。事実,失業や不完全就業がインフォーマルセクター参入に直結する場合は多い注33)。途上世界を中心に,経済危機や構造調整・再編過程がフォーマルセクターの雇用機会削減,世帯収入の実質的減少を招来する事態が広がっており,それがインフォーマルセクター拡大につながっているのである。
 他方,多くの先進諸国において今日,最も急速な広がりを見せる女性の労働形態といえば,いうまでもなくパートタイム労働である。本来,パートタイム労働は字義通りであれば短時間労働を意味するはずであるが,その定義は国により異なり,実態は多様である。しかし一般に次のような傾向が認められる。パートタイム雇用は例外なく圧倒的に女性比率が高い。アメリカや北欧諸国を除き,女性の労働力率が高い国では一般にパートタ イム比率も高い。逆もまた然りで,南欧諸国やアイルランドなどはその代表である。また失業率において女性が男性ほど高くはない国(イギリス,日本など)では,女性のパートタイム比率が一般に高水準である。
 パートタイム労働ではこのように女性の労働力率上昇,すなわち労働力化との関連性が強いため,必然的に女性特有のジェンダーベースの問題性が顕著に出現する。最も明確なのはジェンダー差別的な職種分布の問題であり,パートタイムは典型的なステレオタイプの女性職に多く普及しているのである注34)。事務とサービス・販売といった二大女性職,またステイタスの低い各種補助要員として,女性はより多く就労しているのであ
る。なかでもサービス部門の比重は圧倒的であり,1994年,たとえばEU12か国平均で女性パートタイム労働者の85%が就労していたとのことである注35)。一方,EU諸国でのパートタイム労働にとって,製造業のウェイトは格段に低く,ドイツ,イタリアなど一部諸国にある程度の重要性が認められるにすぎない注36)。日本の場合,女性パートタイム就労比率の第2位が製造業部門であり,これは先進世界における特例といえよう。
 ところでこの女性のパートタイム雇用に関しては,社会一般の通則的理解として,企業のフレキシブル戦略と家族責任を負う女性の志向性が一致した,労働市場の需給双方に利する利害調和的なものとみなす見方が定着している。だがその内実は,利潤極大化を追求する企業が,内部労働市場でのフルタイム労働者の安定雇用と賃金の硬直性に対し,組織全体の柔軟性向上とコスト削減目的で要請する非正規雇用拡大という外部化の進展にほかならない注37)。当該女性労働者の就労実態から見るならば,不安定雇用,低賃金,スキルアップ・昇進への期待が持てないなど,その周辺的・縁辺的労働としてのネガティブな側面が強烈に露呈されるのである。

(d. 移民労働)
 「移民の女性化」が顕著になっている注38)。とりわけ労働者として,雇用,稼得目的でより先進的な富裕な国へ向かう女性の国際移動が進展している。旧来,女性の国際移動は,戦争花嫁や家族呼び寄せの範疇で扱われることが主流であった。だが近年は,被扶養者としてではない女性の移民が増大している注39)。フィリピンからアメリカや中東,また日本へ,といった幾つかの国際的な労働力の流れにおいて,明らかに女性労働者が
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