早く,女性が農作業に直接携わらない社会的規範が普及していったアメリカの特殊事情が窺われ る。これは20世紀前半期の女性の労働力率に如実に反映されており,両国ともに20世紀初 頭で10%,戦後の1950年でも20%である。同時期に6割を超えていた日本との格差には,農業における女性労働状況の歴然たる相違が明確に捉えられよう注22)。 そして今日もなお,日本など一部先進諸国では,新大陸での大規模機械化農業とは異なり,女性労働が農業労働の多くを担っている。そこでは一般に生産性の低さによる低収入と具体的労働内容に起因する忌避職種化注23)が顕著となっている。限界的な周辺的農業生産に女性就労が集中しているのである。産業 としての農業の位置づけと労働力としての女性の位置づけとの関連性が問われるところである。 (c. インフォーマルセクターとパートタイムでの労働) 女性労働の現代的特徴が最も端的に表れているものに,途上諸国におけるインフォーマルセクター,そして先進諸国におけるパートタイム労働がある。 今日,途上諸国の女性の主要就労領域とみなされるのが,農村での農業労働とならぶ,都市を中心にしたインフォーマルセクターでの労働である。近年,経済社会の混乱が続く中・東欧移行経済諸国でも広がりをみせている。インフォーマルセクターは,単純な技術,ごくわずかな資本,営業場所が不定,雇用者がほとんどいないかゼロ,準適法性または登 録の欠如,帳簿付けがほとんどないことなどが一般的特徴であり,フォーマルセクターの法的・制度的規定を欠如している注24)。フォーマルな法制上の制約もないかわりに, |
それによる保護とも無縁なため,当該就労者は,不安定な身分,最低賃金を下回る低賃金,労働条件の劣悪さなど,周辺的労働の諸特徴を露骨な形で甘受せざるをえない注25)。 露天商,行商,メイドのような個人的サービス注26)から零細な家内製造業まで,その活動内容は雑多であり,また非合法領域も少なくないため,関係情報の収集,計測は困難を極める。しかし,たとえばラテンアメリカのいくつかの国では,実質的に,都市部での女性の非農業就労がすべてインフォーマルセクターとの報告があり注27),またインドやインドネシアでも9割を占めるとまでいわれるなど,女性労働の極度の集中は,総じて一般的 傾向のようである。そこからインフォーマルセクターは,女性を排除しないジェンダーブラインドなセクターと性格付けられ注28)たりするのである。 このインフォーマルセクターでの女性労働には,世界的に共通する幾つかの特徴がある。まず就労形態に関しては,ほとんどの地域で女性は自営,または家族従業者である場合が圧倒的に多く,その割合は男性より高率である注29)。他方,インフォーマルセクターでの雇用労働者の割合は,男性が女性を上回 る。女性は家事・育児などの家族責任との両立のため,自宅べ一スでの就労が多くなる注30)のであり,そのウェイトは世界的に拡大しつつある。なかでも下請け家内労働の増加に関しては,その極端な低所得や劣悪な労働条件が大きく問題化している注31)。これは労働集約的工業製品の戦略的輸出において,在途上国(外資系を含む)企業が行うインフォーマ ルな低コスト工場外労働のフレキシブルな利用に典型的にみられ,女性の「隠れた雇用」拡大を招来している注32)。既述の(a. 工業労働)領域に重なる問題でもある。 |
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