近年,工業製品の輸出を急速に進展させている途上諸国の多くで,工業部門の女性労働が着実に拡大している注17)。その大半が女性 労働をめぐり,上述のような諸事情を相伴しているようである。だが皮肉にも,低コストという数値上に具現される女性労働の周辺性は,そうした女性労働のまさに「周辺的労働」としての競争力の強さにほかならず,それは労働集約財の比較優位を支える主要要素をなすのである。企業が根無し草的に生産立地を移転させる今日,チープレーバーとしての途上国女性労働への選好性は,ボーダーレスな コスト比較から,一層強まっていくであろう注18)。 (b. 農業労働) 産業の構造転換に伴い,世界的に農業での就労が縮小を続ける現代であるが,女性労働 の場合,依然,世界のおよそ3分の1が農業に従事している注19)。ただし地域的偏在性が強く,今日,農業が就業構造の最大部門であるのは,アフリカの大半の諸国と南アジアな,途上世界の一定地域に限定される。そこが世界の最貧地域でもあることから,女性の農業労働は,途上諸国の開発問題の一環として議論されることが多い注20)。かつて受益者・ 被害者として客体的立場にあった女性を,い かに主体,行為者として開発プロセスに組み 込むか,その取り組みが注目されている。 途上諸国の女性農業労働には,地域的特徴が顕著である。アフリカやラテンアメリカでは,植民地時代に展開された男性労働者のプランテーションや鉱山への徴用の歴史的影響もあり,女性による家族の扶養義務が広く定 着している。商品・貨幣経済の浸透によって生存維持的な食料生産に加え,生活必需品の購入も女性の役割となっている。だが戦後の近代化政策の推進は,目標と |
しての生産性向上とは裏腹に,農業における女性労働をかつてない窮状に追い込んだ。近代的農業技術の導入では,むしろそれを利用しえない不利益性が顕現し,また土地集中による土地なし女性の増加などにより,主として女性が担ってきた農村の伝統的な生存維持機能の維持が困難になった。サハラ以南アフリカでの土地の開墾利用が環境破壊の深刻化,膨大な環境難民の発生,児童労働の拡大と悪循環の連鎖を呼び,他方,ラテンアメリカでは土地利用の困難さに起因する女性の都市インフォーマルセクターへの流入とその肥大化など,問題は ますます深刻さの度を深めている。 古くから世界の最大人口地域であるアジアでは,人口の対土地比率の極端な低さから, 同一耕作過程における男女間の序列的役割分 担が固定化してきた。補助的な女性役割は, 主として植え付け,刈り入れ,脱穀など「機械的」反復作業であり,それはまた戦後,機 械化による省力化が最も集中的になされた分 野であった。したがって,戦後の生産性上昇 は女性労働の過剰を顕在化させ,多くの女性 を離農,また追加所得を求めたプランテー ションや都市への国内移動に追い立てていっ た注21)。 先進諸国の多くの国でも,かつては農業が最大の就労部門であり,女性労働の圧倒的部 分が集中していた。日本や大陸ヨーロッパの 小農経営の家族農業などでは,共通して女性 の農作業への就労が重要であった。それと対 照的なのがイギリスとアメリカであり,女性 の農業就労が格段に少なかった。ヨーマンの 雇用農業労働者利用に始まり,資本主義的経 営が最も早期に発展したイギリス,そして奴 隷制の名残が根強く,またイギリスブルジョ アジー社会の生活習慣の一般化により,生業 としての農作業と家事労働との分化が |
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