だがエレクトロニクスとそれ以外の産業とでは,生産様式に関わる具体的事情が全く異なっている。前者は高度なハイテク産業であり,先端技術による作業の機械化と生産工程の細分化が未熟練労働の利用 を可能にした。したがって,そこで使用される機械設備や使用される部品自体は高度の資本集約度と高い技術水準の成果にほかならないが,その組み立て(アッセンブル)作業自体は単純な定型・未熟練労働ですみ,それゆえ低廉な未熟練女性労働力の広範な利用が常態化している。他方,後者では,各産業の具体的生産方式における労働代替技術適応性の限界やコスト的な採算上の制約から,機械化の後進性を余儀なくされてきたが,作業内容が家事労働の外的延長としての性格が強く.伝統的女性職として低賃金女性労働が多用されてきた注10)
 こうした関係が典型的な形で表出されるのが,途上諸国の輸出加工区である。輸出指向工業化が推進される途上諸国では,この設置と拡充を核として,多国籍企業の誘致が進められ,国際市場向け輸出製品の生産を政策的に増強してきた。香港,韓国,シンガポール,メキシコを第一陣とし,アジア,ラテンアメリカ,アフリカの諸国へと,設置地域は世界各地に広がっていったが,そこでの雇用・労働状況にさほど違いはないようだ。
 世界的に8割ともいわれる女性労働者の占有性注11),しかも20歳代前半までの若年女性 が大半で注12)再雇用はなく,低賃金,高回転率,昇進・スキルアップの見込みなし,そして労組組織の排除など,これらのほとんどが世界的に共通した特徴なのである。そこには,途上国女性労働の世界的周辺労働としての位置づけが端的に表されているといえよう。また外国企業誘致の強力な誘因として,現地女性の器用さ,従順さ,誠実さ,
協調的,期待賃金の低さ注13)など,一部アジア諸国政府によって政策的にピーアールされたことは記憶に新しいが,それがいわゆるジェンダー 差別的社会通念を露骨に体現したものであることは,誰の目にも明らかであろう。
 今日,世界はグローバルな競争時代の只中にある。世界戦略のもと,ボーダーレスに競う多国籍企業にとって,それが労働集約的な産業や作業工程を擁す場合,生産立地選択上,このように特徴づけられる途上国女性労働はより一層,その誘因を強めるであろう。実際,算定材料となる労働コストは,直接賃金に付加給付の有無や軽重,労働供給の確実性,労働者の教育水準,欠勤率や移動率など, 質的諸要因も勘案した労務費単価である。さらに進出企業に有利な現地政府の税制や労働法制,社会保障制度,政治的安定度等,経済外的諸要因も考慮されることなどを考え合わせばなおさらのこと,有利な立地条件を求 め,途上諸国への生産移転は続き,女性労働 の充用は拡大するであろう注14)
 またこうしたNIDLとして把握される今日の世界的生産システムには,輸出加工区での近代的工場設備での生産に加え,それを支える国際的下請け生産関係の存在があることを看過すべきでない。その末端には,たとえば零細工場における家族労働や家内作業場での出来高払いの賃仕事注15)が機能しているのであって,そこに膨大な量的規模の女性労働者が就労しているのである。インフォーマル化する場合も多く,その労働条件の劣悪さ・過酷さは想像に難くない。衣服産業はその典型 であり,途上諸国に限らず先進諸国にも広がりをみせ,たとえばニューヨークのような巨大都市に,現代の「苦汗工場」とよばれるような零細工場が確認されるのである注16)
 - 5 -
<<back    next>>