IV. 現代国際分業における女性労働の周
   辺性

 国際分業システムが重大な変容を続け,そ こに女性労働が大きく関わり,重要な役割を 果たしているということは,今や否定しがた い現実である。
 機会均等関連法制等の整備により,主とし て先進諸国において,近年,高学歴女性のキャリア化が急速に進行している。通俗的表現としての「女性の進出」も,往々にしてこ の現象を根拠にしたものである場合が多い。しかし,そうしたいわば中核的労働への女性の進出は,何よりも量的割合において,依然, 少数派にとどまる。現段階では,世界的にも圧倒的に多くの女性労働は周辺的位置付けをしいられているのである。そうした現象の根 幹部分に,いわゆる家父長制理念にもとづく女性労働への低評価,ならびに女性の家事・育児労働との二重負担,といったジェンダー差別に関わる問題の存在があることはいうまでもない。
 グローバルな資本間競争が一層熾烈さを増すなか,こうした周辺的労働としての女性への選好度は,コスト的にも,またフレキシブルな利用のしやすさからも,今後,一層高 まっていくであろう。それは同時に,S.サッセンが強調する女性労働内部での階層分化の進行と並行したものといえようが,翻って今日の国際分業の変容との関連性の視点から女性労働の問題性を検討するとなると,やはりその焦点は,量的規模においても,質的な意味からも,やはり二極化のうち,周辺的な女 性労働問題ということになるであろう。そこで次に,そうした性格付けがなされる女性労働が多く確認される幾つかの代表的領域について,世界的にその就労状況と問題点を概観しておこう。
 ちなみにM.ミースは,こうした今日の国際分業システム再編にとって重視すべき周辺的途上地域での女性労働の就労形態を,次の四 つに区分している。1.先進国企業が設置した 輸出加工区での世界市場向け大規模製造工 場,およびその下請け的工場における雇用労 働力。2.インフォーマルセクターでの多様な 就労。3.農業部門での多様な就労(世界市場 向け商業的農業での臨時・季節雇用,小規模 小農経営での家族労働,生存維持的自家用食 料生産のための労働など)。4.観光業,性風俗産業における性的サービス労働注9)
 本稿ではこの区分を参考に,先進地域も含むことから,以下,(a.工業労働),(b.農 業労働),サービス業が一般に多い(c.途上諸国のインフォーマルセクター労働と先進諸国のパートタイム労働),労働力それ自体の国際化現象にほかならない(d.移民労働)の四つの領域ごとに検討していく。

 V. 現代国際分業システムと女性労働の
   諸相

(a. 工業労働)
 歴史的にかつて先進諸国の近代的工業化の進展過程は,重化学工業の比重増大とともに女性労働を工業部門から排除してきた。だが過去半世紀,世界的スケールでみるならば,工業にはむしろ女性労働への収敏が顕著になっている特定の産業部門や作業工程が存在する。いわゆるNIDLの展開とともに,エレクトロニクス,衣服,繊維,履物,玩具,食品加工などの分野で,集中的に女性が現業労働へ充当され,生産活動の多くを担うように なっているのである。
 いずれも労働集約的性格が強く,それゆえ安価な低コストの労働力供給を大量に必要とする領域である。
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