「主婦」としての雇用(パートタイム)により,消費財購買力向上から購入可能となること。この二つの条件をNIDL成立のための基本的ジェンダー条件として付加し,まさにそういう世界 的に共通した周辺的低廉労働力という意味 で,女性労働の動員をNIDLに必要不可欠と 論じているのである。 また同じくNIDL論に立脚し,国際的な資本移動と労働力移動の密接な関連性のなかに 今日の女性労働の歴史的・構造的特質を検討 し続けているのがS.サッセンである。彼女 は,先進工業諸国に顕現している途上地域出身女性移民労働者の劣悪な就労実態から,先進国内部で展開する女性労働の階層分化に着 目している。ニューヨーク,ロサンゼルスといったアメリカの主要都市に代表される,いわゆるエリート(白人)女性の中核的労働と,非白人・移民女性の補助的でインフォーマル な周辺的就労との二極化が,しばしばその典 型として例示され,先進国からの企業の生産 立地移転が先進世界で脱工業化・サービス化経済を進行させ,女性労働の充当を拡大せしめるが,それが結果的に女性労働内部の階層分化を招来している点を,包括的分析から鋭く指摘している注5)のである。女性労働はすべて差別・抑圧の対象として,その周辺性を一義的に捉える通説的フェミニズム論に対する痛烈な問題提起とも捉えられよう。 さて,ここで最も今日的な話題であり,かつ切迫した喫緊の問題性を有すITに関し,その女性労働との関連や影響を簡単に触れておこう。一般に近年のITは,サービス業であれ, 製造業のサービス的領域であれ,オフィスワークのホワートカラー職種領域に労働節約 的効果があり,雇用削減につながることが多 いといわれる。とりわけ女性に対し,より深刻な打撃を与えるといわれるが, |
J.ウェブスターはその理由として,女性労働の職務セグリゲーション上の次の三点を指摘している。 1.水平的(horizontal)分業における女性職 (事務,情報機器操作など)はITの進歩によ り削減されやすい。2.垂直的(vertical)分業における女性職(単純・低熟練作業)もITの進歩により削減されやすい。3.ITの進歩が多くの雇用創出効果を発揮する科学・経営職に女性は少ない注6)。いわゆるステレオタイプの女性化職種が,総じてIT時代には雇用へのネガティブな効果を集中的に受ける可能性が高いということなのである。 だがIT関連の女性労働問題には,実態として,女性の高学歴化と相まって女性のハイスキル職への進出が顕著な韓国でのポジティブな事例,逆に全般的に女性の雇用水準が高いアメリカでは女性のIT関連雇用が他分野に比較して少ないこと,ドイツ統合以降,(旧)東ドイツ地域で顕現している女性IT労働者の高失業など,世界各地で様々な状況が報告されている注7)。また拡大しつつあるITネットワークを基盤とする在宅ワークをめぐり, 雇用・労働条件上の深刻な問題注8)も噴出し始めている。こうしたITに関連する多様な問題性は,今後,ITのさらなる進展に伴い,産業部門・領域の枠組みを越え,ますます広がりをみせるであろう。 今日では,このように現代特有の特殊な諸要素が絡み合うなか,変容していく国際分業システムに女性労働は様々な職種・領域で組み込まれている。女性としてのジェンダー的要素を付帯しつつ,世界的な総体として女性労働が拡大する一方,その内実は一層,複雑になっていくであろう。 |
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