さらにこのNIDL成立の条件として,彼らは以下の三点を挙げている。1.世界的規模での潜在的労働力プールの形成。2.技術と労働組織の発展による複雑な生産工程の比較的単純な単位工程への分割。3.運輸・通信の技術進歩による生産立地と管理の地理的距離からの制約性解放。これら三条件のフルセットでの登場が,NIDL実現の基盤となったというのである。折しも60年代から70年代初めにかけては,先進各国で労働市場の硬直化と賃金高騰による労働コスト上昇が,次第に一般的傾向として明確になっていった時期であ る。そうした情勢下では,これら諸条件を背景に各企業がグローバル戦略への選好性を高めていくことは,低コスト,高利潤を追求する資本の論理からすれば,いわば必然的な流 れであったといえよう。
 1980年代末に始まる冷戦体制崩壊とも相まって,今や,資本の論理は世界を席巻し,旧社会主義経済圏をも包摂したグローバル経済の下,国際分業システムのさらなる再編が展開しつつある。近年では,韓国,台湾,あるいはタイなど途上国出身企業がより後発国へ,あるいは先進国へ進出するなど,多国籍企業の事業展開も新たな局面を迎え,事態は複雑化している。フレーベルらが定式化した プロトタイプのNIDLとの懸隔が,それ自体, 論議を呼ぶことも少なくない。だが資本活動のボーダーレスな自由化が,世界的な生産システムを国家的枠組みや空間的距離を越えて創出・再編し続け,国際分業の構造と態様を変動させていくという,その本質的な動態原理に変わりはない。また昨今,クローズアップされることが多い情報通信技術革新(IT革命)の影響が取りざたされることも多いが, しかしそれは何らNIDLに対抗的なものではなく,むしろNIDL成立条件3の
さらなる展開として,NIDLの推進を技術的に基盤強化する新たな条件の付加と見なしうるだろう。

 III. 国際分業システムの変容とジェンダー
 ところで,こうした世界的な国際分業システムの再編についてその具体的内容を検討するならば,そこには極めて強力にジェンダー的特徴が看取される。何よりもそれを明確に表出しているのは,NIDLの展開と同時期に進行した女性の労働市場への参入拡大に関わる状況変化である。国連報告書 "Women in a Changing Global Economy " によると,世界の経済活動人口に占める女性の割合は,1970年の27%から90年には38.4%となり,その後も一般に上昇傾向が続いているといわれる注2)。ことに幾つかの地域での女性の労働力化は顕著であり,たとえば2000年,女性の労働力率は東アジア77.3%,北アメリカ70.2 %,東ヨーロッパ70.0%,そして北ヨーロッパ69.2%である注3)。指摘されることの多い女性就労に関わる公式統計が孕む諸問題の存在注4) を考慮したとしても,こうした数値上の比率動向に表される女性の労働参加の進展は,誰 もが認める現実といえよう。そこから現代は,「労働力の女性化(feminization)」の時代ともよばれる。
 NIDL概念に依拠しつつ,この新たな国際分業システムがいかに女性労働の動員を拡張しているかを強調する代表的論者に,M.ミースがいる。彼女は世界的な女性労働の就労実態に注目し,NIDLとの理論上の連接を試みた。1.周辺的途上地域に再配置された産業,アグリビジネス,輸出指向型企業における低廉,従順,操作しやすい女性労働の利用(再発見)。2.そうして生産された製品が,中心的先進地域での既婚女性労働力の
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